画像提供:ジンマー・バイオメット合同会社

関節の痛みと健康寿命

 

関節疾患の多くは様々な原因で軟⾻がすり減り、⾻の負担が増えて変形してしまいます。⽐較的ゆっくりと症状が進⾏する慢性型のため、「加齢」という理由で⾒過ごされてしまうこともありますが、病態が進⾏してしまうと、関節に強い痛みが発⽣したり、歩く・座る・⽴つといった基本的な動作が制限されたりしてしまう事態になりかねません。

⽇本は超⾼齢社会になり、その中で「健康寿命」をいかにして伸ばすかが重要になっています。そして、健康寿命を短くする要因として関節痛があります。 痛みがなくなれば元気に⽣活することができ、それによって健康寿命も伸ばせます。関節に痛みを感じ、⽣活レベルが低下しているようであれば、なるべく早く整形外科を受診して、適切な治療を適切なタイミングで受けていただくことが重要だと思います。
整形外科には⼿術治療だけでなく、保存治療も含めていろいろな治療⼿段があります。
関節痛のせいで外出がおっくうになったり、気持ちが沈んで内向的になったりしてしまうようならば、早めに受診をして専⾨的なアドバイスや治療を受けることをおすすめします。

 

イメージ図 健康寿命

 

 

関節とは


⼈の体には全部で68個もの関節があり、⾻と⾻とをつないでいます。これらの関節を動かすことで、歩いたり、しゃがんだり、物をつかんだりというように、私たちが⽇常⽣活を営む上で必要な動作が可能になります。
⾻は堅い組織ですが、その堅い⾻どうしが直接触れあうと、お互いの堅さで⾻が磨り減ってしまいます。それを防ぐために、正常な関節部分の表⾯は、軟⾻という滑らかな組織で覆われています。
軟⾻は関節に加わる衝撃を吸収し、関節を滑らかに動かす働きがあります。さらに関節部分は、関節包という袋状のもので覆われています。その内側にある滑膜という膜から関節液が分泌され、関節の潤滑と栄養補給を⾏っています。
このように、軟⾻や関節液が機能することで、私たちは、痛みを感じることなく⾃由に関節を動かすことができるのです。

 

 

人工関節置換術って?

 

痛みの原因となっている関節の表面を取り除いて、人工関節に置き換える手術です。
⼈⼯関節は、主に⾦属やセラミック、ポリエチレンなどでできています。
人工関節置換術は、他の治療法と比べると「痛みを取る」効果が大きいのが特徴です。

 置換術イメージ

●⼈⼯股関節全置換術

変形性股関節症、関節リウマチ、特発性大腿骨骨頭壊死などにより変形してしまった股関節に対して、人工股関節全置換術を行っています。
当センターでは、仰臥位前方アプローチによる最小侵襲手術を行っています。従来の手術方法とは異なり、皮膚切開は8㎝程度と小さく、筋肉や靱帯を切らずに手術を行います。仰臥位前方アプローチのメリットとしては、手術時間の短縮、出血量の軽減、術後の脱臼率の低下があります。さらに、手術中に透視画像で人工関節の設置位置の確認や脚長差の調整を行うことも可能となります。仰臥位前方アプローチは、メリットの多い手術方法ですが、難易度も高いため股関節専門医でも患者さんによっては行えない場合があります。しかし、当センターでは年間100例以上の手術が、仰臥位前方アプローチによって行われており、栃木県内では最多となります。

 置換術イメージ

 

●⼈⼯膝関節置換術

変形性膝関節症、関節リウマチ、特発性大腿骨骨壊死などにより変形してしまった膝関節に対して、人工膝関節全置換術を行っています。
当センターでは、2023年よりナビゲーションシステムを使用した手術を行っています。ナビゲーションシステムとは、自動車のナビゲーションシステムと似たような原理で、赤外線を使用して、骨や手術器械の正確な位置をリアルタイムに確認するものです。ナビゲーションを使用することにより、角度が0.5°、距離が0.5㎜の範囲で骨を切る量を調整することが可能になるため、より安全で正確な手術が可能となります。さらに、患者さんそれぞれにあった靱帯などの軟部組織のバランス、人工関節のサイズを手術中に確認することができます。通常の手術費用と変わりません。

 置換術イメージ

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●⼈⼯肩関節全置換術

変形性肩関節症、関節リウマチ、上腕骨頭壊死、骨折・脱臼などにより、変形してしまった肩関節に対して、人工肩関節置換術を行っています。
当センターでは、2014年より日本に導入されたリバース型人工肩関節置換術も行っています。従来の人工肩関節前置換術が適応とならなかった、腱板機能の修復不能な患者さんや高齢の上腕骨近位端骨折の患者さんが対象となり、安定した手術成績が得られるのが特徴です。

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JRC10

 

●⼈⼯肘関節全置換術

変形性肘関節症、骨折・脱臼、関節リウマチなどにより、変形してしまった肘関節に対して、人工肘関節全置換術を行っています。対象となる患者さんは比較的少なく、全国的に人工肘関節全置換術の経験がある医師が少ないのが現状です。当センターでは、経験豊富な2人の上肢外科の専門医が手術を行っています。

 置換術イメージ

 

人工関節についてのQ&A

 

入院期間はどのくらいになりますか?

股関節:約1~2週間
膝関節:約3週間
肩関節:約1~2週間
肘関節:約1週間

人工関節置換術後には、リハビリテーション(以下、リハビリ)を行う必要があります。リハビリの目的は、術後の関節機能の改善を促進し、手術の効果を最大限に発揮させ、生活の質を向上させることです。
術後早期にリハビリの時間を確保することが、日常生活への復帰には必要となります。当院では手術翌日から積極的に専門療法士によるリハビリを行っています。どの部位の手術でも、術後2~3週間の入院リハビリを行います。担当の理学療法士や作業療法士にリハビリの状況を確認して、退院時期を決定します。
人工股関節・膝関節置換術の患者さんは、提携病院へのリハビリ転院も選択できます。リハビリ転院を行うことで、リハビリ時間は1日最大180分まで増え、土・日・祝日もリハビリを行うことができます。リハビリ転院を希望される患者さんは、術後7~10日で転院となります。転院先でも、執刀医が週に1度の回診とレントゲン検査の確認を行いますので、安心してリハビリを行ってもらうことができます。2023年度から本格的に始めたこの取り組みですが、患者さんからの評判も良く、術後の満足度も向上しました。

術後にどれくらいで元の生活や仕事に戻れますか?

階段の昇り降りや家事は、退院後から可能です。仕事内容や職種で異なりますが、事務職であれば術後1~2か月ほど、重労働であれば2~3か月ほどで仕事復帰が可能です。

術後のリハビリはどれくらい必要ですか?

退院後は自主的にリハビリを継続していただきますが、回復には個人差がありますので、通院しながらもう少しリハビリを行った方が良い場合もあります。基本的には、術後半年のリハビリを勧めています。
当院では通院リハビリを行っておりませんので、通院リハビリが必要な場合は、紹介元やご自宅近くの連携医を紹介して、術後のリハビリを行っていただきます。

手術後に膝立てはできますか?

股関節:股関節手術ですので、膝立ては問題なくできます。当院では最小侵襲手術を行っているため、基本的には禁止動作を設けていません。
膝関節:膝立ては、使用するインプラントの種類によっては可能です。しかし、膝周囲の違和感、手術を行ったという心理的要因により、術後に膝立てが行いにくい場合もあります。

手術後に杖は使用しますか?

股関節:術後1~3か月は杖の使用をお勧めしています。最終的には不要な患者さんが多いですが、杖の使用期間に関しては歩行状態に併せて適宜指示しています。
膝関節:術後半年の使用を勧めています。基本的に、外出時には杖の使用を勧めています。

車の運転はいつからできますか?

股関節・膝関節:手術後4~6週間で可能です。最終的には、自己判断・自己責任になるため、いつも通りの急ブレーキが踏める自信がついたタイミングでお願いしています。
肩関節:手術後1~2か月で可能です。開始時期はリハビリの進み具合によるため、個人差があります。
肘関節:手術後3か月くらいから可能です

手術後にスポーツはできますか?

股関節:基本的には運動に制限はありません。運動に耐えうる筋力をつければどの運動も可能ですが、骨折などのリスクがあるスキーやコンタクトスポーツはお勧めしていません。
膝関節:ウォーキング、水泳、サイクリング、ゴルフなどの負担が少ないスポーツであれば、筋力の回復を確認してから、手術後3か月から半年ほどで可能です。
肩・肘関節:ウォーキング、ランニング、ゲートボールなどの手術を行った側の肩関節や肘関節に負担をかけない形でのスポーツであれば可能です。

飛行機に乗ることはできますか?

金属探知機がなっても、その場で係員に説明すれば問題ありません。あらかじめ、証明書を当院から発行することも可能です。

MRIは撮影できますか?

撮影可能です。

人工関節の寿命はどのぐらいですか?

個人の活動レベルの違いにもよりますが、股関節は20~30年、膝関節は15年以上は問題ないと言われています。今後は、インプラントの改良により、人工関節の寿命は延びていくと思われます。

手術中に輸血は必要ですか?

股関節・膝関節:手術前の血液検査で輸血が必要の可能性が高い場合は、あらかじめ手術前に自分の血液を貯めておく自己血輸血を行っています。
肩・肘関節:輸血を使用しないことが多いですが、手術前の血液検査で貧血が強い方は、輸血を使用する場合があります。

治療費はどれくらいかかりますか?

高額療養費制度を利用することで、費用の負担を少なくすることが可能です。

※制度の変更により、詳細は変更する場合がございます。


高額療養費制度についてはこちら
(食事代、個室代は別途必要になります)

 

◆下肢手術(股関節・膝関節)の場合

健康保険を使用される場合
70歳未満の方 約60万円(3割負担)
70歳以上の方 57,600円
(所得により異なる場合があります。)
高額療養費制度※を
利用される場合
70歳未満の方
所得区分 高額療養費制度を利用した場合
年収約1,160万円~の方 約27万円
年収約770~約1,160万円の方 約19万円
年収約370~約770万円の方 約11万円
~年収約370万円の方 57,600円
住民税非課税の方 35,400円
70歳以上の方
所得区分 高額療養費制度を利用した場合
一般 57,600円
住民税非課税の方 24,600円または、15,000円

 

◆上肢手術(肩関節)の場合

健康保険を使用される場合
70歳未満の方 約45万円(3割負担)
70歳以上の方 57,600円(所得により異なる場合があります。)
高額療養費制度※を
利用される場合
70歳未満の方
所得区分 高額療養費制度を利用した場合
年収約1,160万円~の方 約26万円
年収約770~約1,160万円の方 約18万円
年収約370~約770万円の方 約10万円
~年収約370万円の方 57,600円
住民税非課税の方 35,400円
70歳以上の方
所得区分 高額療養費制度を利用した場合
一般 57,600円
住民税非課税の方 24,600円または、15,000円

 

 

 

人工関節センターについて

 

 

安全かつ低侵襲な⼈⼯関節⼿術を患者さんに提供することを⽬的として、2008年4⽉から⼈⼯関節センターを整形外科内に開設いたしました。
⼈⼯関節⼿術は、専⾨医による⾼度な技術が不可⽋ですが、⼊院中の看護、リハビリテーションも重要です。
当院は県内最多の⼈⼯関節経験数があるため、看護やリハビリテーションに関わるスタッフも豊富な経験を有しております。常に改善点、改良点を考え⽇々情熱をもって精進しています。患者さんにとって満⾜できる医療を⼼がけております。若い⽅あるいは⼈⼯関節に抵抗のある⽅でも、各種⾻切り術あるいは⾻温存型⼈⼯関節により⾃分の⾻を温存することが可能な場合もありますのでご相談下さい。

 

 

外来受診方法

 

各部位の専⾨の医師が外来を担当します。
受診⽅法は、通常の整形外科外来受診と同様です。
受付時間は午前8:30〜11:00までとなっております。

専⾨部位初診担当医師:曜日
股関節 立之 芳裕:⾦曜⽇(第2・4)
膝関節 森重 雄太郎:木曜⽇ 立之 芳裕:⾦曜⽇(第2・4)
肩関節 岩部 昌平:⽉曜⽇  松村 昇:土曜⽇(第1・3)
肘関節 岩部 昌平:⽉曜⽇  加藤 知行:⽔曜⽇
指関節 岩部 昌平:⽉曜⽇  加藤 知行:⽔曜⽇

 

当院宛の紹介状を持参されていない方は、初診料のほかに選定療養費として、7,700円(税込)をご負担いただいております。

ご不明な点がございましたら、済⽣会宇都宮病院整形外科外来までお問い合わせ下さい。

 

 

手術実績

◆人工関節置換術実施件数

部位2019年度2020年度2021年度2022年度2023年度
⼈⼯股関節置換術 107 115 118 119 141
⼈⼯膝関節置換術 32 48 56 62 56
  (全置換) 31 44 44 60 54
(単顆置換) 0 2 10 2 2
⼈⼯肩関節置換術 4 4 11 11 6
⼈⼯肘関節置換術 0 0 1 1 1

◆再置換術実施件数

部位2019年度2020年度2021年度2022年度2023年度
⼈⼯股関節再置換術 8 11 9 6 5
⼈⼯膝関節再置換術 1 2 2 0 2
⼈⼯肘関節再置換術 0 0 1 0 0

     ※再置換術実施件数は、上記人工関節置換術実施件数に含まれます。

 

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