がん診療について
がん治療について
新しいがん治療の選択肢 進行大腸がんの化学療法
大腸がんの治療法
大腸がんには有効な抗がん剤がいくつか開発されており、数種類の薬剤を組み合わせて使用する場合と、単独で用いる場合があります。根治的な手術が難しい場合には、化学療法の適応になります。副作用の比較的少ない抗がん剤の開発と、副作用対策の進歩により、日常生活を送りながら外来通院で化学療法を受けている患者さんも多くなりました。
また体内の特定の分子だけを狙い撃ちにして、その働きを抑える「分子標的薬」も開発されています。副作用をコントロールしながら、がんあるいは治療と上手につき合っていくことが、一番の目標といえるでしょう。代表的な薬と治療法について説明します。
5-FU(5-フルオロウラシル)+ロイコボリン
5-FUは数十年前から広く使われている薬で、胃がんや食道がんにも用いられています。大腸がんに対しては、ロイコボリンという薬と併用されることが多くあります。最近はそれに加えて後述するイリノテカンやオキサリプラチンとも併用されることも多くなってきています。使い方は、週に1回点滴する方法や、2週間に1回持続点滴を行う方法、週に1回肝動脈へ点滴する方法など、いろいろな治療法に組み込まれて使用されています。
副作用は比較的軽微ですが、下痢や口内炎などの粘膜障害や、白血球が減ったりすること、手指の皮膚が黒くなること、食欲の低下などに注意する必要があります。
カペシタビン
カペシタビンとは、肝臓やがん細胞内で代謝されて、5-FUに変化し、抗がん効果を発揮する薬です。カペシタビン自体には抗がん効果はないため、5-FUを直接服用した場合よりも副作用を少なくすることができます。また、がん細胞内での薬剤の濃度を高めることもできます。
特徴的な副作用として、手足の先や爪などが赤くなったり、チリチリするような感覚が生じたり、時には痛みを伴った腫れや水膨れが生じることもあります。これらは「手足症候群」と呼ばれています。そのほかにも吐き気や嘔吐、下痢、口内炎などの症状が現れることもあります。
イリノテカン
イリノテカンは、胃がんや肺がんでも広く使用されている薬です。大腸がんに対しては、単独あるいは、5-FU+ロイコボリンを併用するFOLFIRI(フォルフィリ)療法で用いられます。[図2]
FOLFIRI療法とは、注射薬による治療法です。1日目に、まずイリノテカンの点滴注射とレボホリナートカルシウム(略称:l-LV)の点滴注射を2時間、病院で受けます。続けて5-FUを5分程度で注射、その後5-FUの持続点滴注射を帰宅後も合わせて46時間行います。2週間に1度通院して、この治療を繰り返し受けます。持続点滴注射のために、CVポートというカテーテル※1を胸部か腕に埋め込む必要があります。埋め込みは局所麻酔下の処置ですみます。抗がん剤が入った携帯用ポンプを用いることにより、自宅で点滴を続けることが可能となります。
この治療法の副作用としては、食欲の低下、全身倦怠感、下痢、白血球の減少、脱毛などがあります。
※1カテーテルとは、ストロー状の長い管のことで、血管などに挿入し、体液の排出、薬液の注入に用いられます。
オキサリプラチン
オキサリプラチンは単独ではあまり効果を発揮しません。そのため、5-FU+ロイコボリンを併用するFOLFOX(フォルフォックス)療法[図3] とカペシタビンを併用するXELOX(ゼロックス)療法[図4] があります。この治療は、FOLFIRI療法と同等の治療効果があります。
FOLFOX療法は、注射薬による治療法です。1日目に、まずオキサリプラチンとレボホリナートカルシウム(略称:l-LV)の点滴注射を2時間、病院で受けます。続けて5-FUを5分程度で注射、その後5-FUの持続点滴注射を帰宅後も合わせて46時間行います。2週間に1度通院して、この治療を繰り返し受けます。この治療法では、46時間の点滴注射を行いますが、抗がん剤が入った携帯用ポンプを用いることにより、自宅で点滴を続けることができます。 自宅で点滴注射を行うためには、FOLFIRI療法同様、カテーテルを、胸部か腕に埋め込む必要があります。
この治療法の副作用は、食欲の低下は軽く、脱毛もあまり認めませんが、投与された患者さんの8~9割に感覚神経の末梢神経障害を来します。この感覚神経の末梢神経障害は、治療開始当初ならば2〜3日で消失します。しかし、治療を継続するに従って、回復が遅れ、治療後4~5ヵ月で、1割の患者さんに機能障害(箸が持ちにくくなるなど)を来すといわれています。このような場合には、オキサリプラチンの投与量を減らしたり、あるいは治療を休むなどして副作用の回復を待ちます。これら以外にも白血球が減ったり、血小板が減ったりすることが比較的よくみられます。
図4:XELOX療法の投与スケジュール
分子標的薬
基本となる抗がん剤治療に加えて、近年は「分子標的薬」と呼ばれるタイプの注射薬が併用されることがあります。分子標的薬はがん細胞の増殖に関係した特定の標的を攻撃します。代表的なものとして、ベバシズマブとセツキシマブ、パニツムマブが挙げられます。
ベバシズマブ
ベバシズマブやパニツムマブは、がんの異常血管を修復して、併用する抗がん剤をがんに届きやすくする働きがあり、ほかの抗がん剤と併用されることで効果を高めます。FOLFIRI療法、FOLFOX療法、XELOX療法に追加して使用します。
一般的な抗がん剤に比べて、だるさ、吐き気、嘔吐などの副作用は少ないとされていますが、まれに出血、消化管に穴が開く、血液の塊が生じて血管が詰まるといった重大な副作用が生じます。また、血圧上昇を引き起こすこともあります。
セツキシマブ、パニツムマブ
セツキシマブは、がん細胞が増殖するための信号を受け取る、上皮成長因子受容体というタンパク質と結びつくことによって、がんの増殖を抑える働きがあります。
この薬の副作用として、吹き出物ができる、乾燥、ひび割れといった皮膚症状が現れます。症状が出る前から保湿剤を使ったスキンケアを行う、症状が現れたときには早めに治療をするといった対応が必要になります。これらの薬は、必ず使わなくてはいけないというものではなく、状況によってはむしろ使用しない方が患者さんにとって有益であることもあります。担当医とよく相談して、最善の治療方法を選択してください。
※このページの記事は、院外報「みやのわ」No.37 2012年10月秋号 の内容を元に、2018年12月に内容を更新しています。