産婦人科

TOLAC(帝王切開後経腟分娩)について

TOLACとは

TOLAC(Trial Of Labor After Cesarean section)の略語で、前回帝王切開出産の既往をもつ妊婦が、今回の出産は経腟分娩を試みることを指します。かつてはVBAC(Vaginal Birth After Cesarean section)とも呼ばれていました。

TOLACは済生会宇都宮病院では可能ですか

結論を先に申し上げると、可能ではあります。ただし、施行するためにはいくつかの条件があります。なぜかと言えば、それはTOLACには予想できない危険性が伴い、少しでもそのリスクを軽減するためです。

済生会宇都宮病院では年間どのくらいの妊婦がTOLACを施行しますか

済生会宇都宮病院では毎年1,000人前後の方が出産します。そのうち200人ほどは前回帝王切開のため今回も最初から帝王切開を希望されますが、逆にTOLACを希望する妊婦も10~20名ほどいらっしゃいます。しかしさまざまな理由から、TOLACを断念あるいは中断となり、最終的に成功する数は10名前後となっているのが現状です。

TOLACの問題点

帝王切開手術は、子宮壁にメスで切開を入れて胎児を取り出し、その後切開創を縫合して閉じてきます。この切開創は数か月すると瘢痕化して、肉芽(にくげ)という硬い組織に置き換わります。この肉芽は、強度はあるもののゴムのような弾力が足りません。そのため、正常の子宮筋のように伸び縮みしにくく、強い力で引っ張られると断裂しまうのです。また、手術後の帝王切開創部は一般に手術前と比べて壁が薄くなっていることも珍しくありません。これら二つの理由から、出産時に胎児の頭が産道を降りてきて、帝王切開創を広げようとしたとき、裂けてしまう恐れがあるのです(子宮破裂)。統計上その発生率は5%前後とされていますが、一旦、子宮破裂が起きると、子宮血管が破れて大出血を招く恐れがあります。対応が遅れれば、母子ともに命の危険にさらされかねません。

子宮破裂を予測することは可能ですか

残念ながら、予測することはほぼ不可能です。なぜなら、実際どのくらいの力が創部にかかり、その力に対し肉芽組織がどの程度まで耐えられるのか(弾性の限界)、まったく予想ができないからです。子宮壁の厚みを超音波で測定する場合もありますが、あくまで判断材料としての参考程度にしかすぎません。

それでは、どの様な条件ならTOLACが可能ですか

まず、身体的条件として、前回帝王切開となった原因が重要です。たとえば、もし骨盤が狭いためであったとしたらTOLACは回避すべきです。また、前回の帝王切開がどのような手術方法で行われたかの情報も大切です。一般に帝王切開手術と言っても、細かく見れば術者の違いにより手技や縫合方法、使用する糸まで千差万別です。それにより切開創部の厚みや強度も変化するからです。

イメージ図 帝王切開創の種類

次に、心理的社会的条件として、何より経腟分娩をしたいという、本人の強い意思が求められます。TOLACの危険性を常に感じながら長い間陣痛に耐えるのですから、それなりの覚悟が必要です。当然、ご主人の了解・同意も大事です。後になって知らなかったと後悔してもいけませんので、できればご主人も同席の上、主治医から納得いくまで説明を聞くことが大切です。

TOLACまでの過程

TOLAC希望の方は、その旨を外来担当医に告げて、可能かどうか充分話し合うことが重要です。医学的に可能となったら、同意書にご夫婦ともに署名・捺印し提出して下さい。予定日近くになったら、もしもの緊急手術に備えて術前検査をしておきます。どの段階でもTOLACはキャンセルできますので、その際は躊躇せず申し出てください。