産婦人科

不妊治療について

一般的に不妊治療とは、カウンセリング、生活指導、薬剤投与・ホルモン治療・手術・生殖補助医療など様々な治療手段を含む言葉ですが、ここでは不妊治療の中心となる生殖補助医療について当院で実施している内容を解説します。

Ⅰ.生殖補助医療を理解するための基礎知識としての自然妊娠機序

 月に一度ひとつだけ左右どちらかの卵巣から排卵した卵子は、卵管内に取り込まれて精子と出会うことを数日間待ちます。このタイミングで腟内射精がなされると、一部の精子の集団は卵管まで移動し、その内の一匹の精子が卵子と結合して受精卵(胚と呼びます)となります(受精)。受精卵は卵管の中を子宮に向かって移動しながら細胞分裂を繰り返し、最終的に胚盤胞をいう形に変化し、6日ほどで子宮内に到達して子宮内膜に埋もれます(着床)。着床した受精卵は栄養膜細胞となって、将来胎盤の元となる絨毛を子宮壁の中に形成し、大量のホルモン(hCG)を産生します。このホルモンにより尿中の妊娠反応が陽性になるのです。

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Ⅱ.不妊になる原因

 妊娠は基本的要素として①卵子、②精子、③卵管(受精の場)、④子宮(着床の場)が正常にその役割をはたしていれば原則的に成立するはずです。逆を言えば、不妊となるのはそれら四つのうち、いずれかが機能不全となっているのです。①、②、④がまったくない場合、理論的には対処方法はあるのですが、現在のわが国の医療環境においては、法的・倫理的問題により一般的な治療対象とはなっていません。そこで、①、②が少しでも残っている場合や、③が欠損しているか、あるいはまったく機能していない場合だけが、体外受精の方法により妊娠が可能となるのです。
 ①、②、③の要因の中で最も重要となるのが、①の“卵子”の問題です。なぜなら、人間の元となる受精卵とは、言うなれば卵子の細胞に精子が寄生したようなもので、受精卵のほとんどの機能は卵子そのものだからです。さらに、精子はある程度の年齢まで睾丸の中で無尽蔵に生産されるのに対し、卵子は女性が誕生する前の妊娠4か月をピークに、年々その数が減少していくのです。

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1. 人工授精(AIH)

 男性不妊として、精子の数が少ない場合、あるいは精子の運動機能が不良な場合、体外受精をする前に、人工授精(AIH)の手段を数回実施することがよくあります。射精された精液を特殊な方法で洗浄・濃縮し、比較的良好な精子だけを取り出し、排卵期に子宮内に注入する方法です。手技としては簡単なのですが、一回の成功率(妊娠率)が5~10%と低いのが欠点です。

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2. 体外受精について

 体外受精(IVF-ET)は、卵巣刺激、採卵、受精、培養、胚移植、受精卵凍結までが一連の流れです。手法により、従来型体外受精(conventional IVF)と顕微授精(ICSI)とに分かれますが、卵子を精子とを受精させる方法に違いがあるだけでその他の過程は同じです。

①卵巣刺激
卵巣刺激法はいくつかの方法があり、症例ごとあるいは施設ごとに若干の違いがありますが、その目的は、できるだけ多くの卵子を獲得し、妊娠率を上げることにあります。なぜなら、卵子や精子の質にはばらつきが大きく、少しでも良好な受精卵を得るためには、数多くの卵子が必要になってくるからです。基本となる方法は、経口の排卵誘発剤(クロミッド、レトロゾール)や注射による卵胞刺激ホルモンをベースに、必要に応じて数種類のホルモンを追加したり組み合わせたりします。自然排卵周期では毎回一つだけの卵胞(卵子を入れた袋)が発育するのですが、体外受精においては卵巣を過剰刺激して複数個の卵胞に成長させていきます。

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②採卵
薬剤の卵巣刺激により複数個の卵胞が発育したタイミングを見計らって、排卵してしまわないうちに卵巣から卵子を体外に取り出します。具体的には、超音波で確認しながら経腟的に採卵針で卵巣を直に穿刺して卵子を吸引採取します。通常は麻酔をかけて行いますので処置の間は意識がありません。麻酔からは数時間で覚醒しますが、半日の入院が必要となります。

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③精子の卵子への添加(培精)
採卵終了後の次の操作では、自宅で採取された夫の精液から特殊な方法で得られた良好な精子だけを卵子と混ぜ合わせます(培精)。一個の卵子に対し十万匹程度の精子を加えますが、一体その内のどの精子が受精するかはまったくの運に委ねられます。その点が次にのべる顕微授精(ICSI)との違いです。

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④顕微授精(ICSI)
精子の数が非常に少ない場合、あるいは精子の運動機能が著しく不良な場合などでは、培精に必要とされる充分な良好精子が得られません。あるいは、良好な精子が得られたとしても、一方で卵子側の何らかの障害により精子と卵子との結合(受精)が行われないことがあります。こういった場合でも、一個の精子細胞を一個の卵子細胞の中に強制的に打ち込むことで、受精を完了させることが可能となります。精子の選択が予測不可能である培精と違い、顕微授精での精子の選択はあくまで人為的に行われることが違いです。

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この一連の受精過程はすべて顕微鏡下で行われるため顕微授精(ICSI)と呼ばれます。顕微授精には非常に繊細で根気のいる顕微鏡下操作が求められ、経験を積んだ胚培養士が担当することになります。

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⑤胚移植
数日間の培養により、ある程度まで成長した良好な受精卵(胚と呼びます)を子宮内に戻す作業です。現在では、多胎妊娠した場合の母体への負担を考慮し、子宮に戻す胚の数は 1個ないし2個までとされています。移植操作そのものは麻酔の必要もなく短時間で終了します。そのため、作業は病棟の採卵室で行いますが、入院の必要はありません。胚移植後は着床を助けるために何らかのホルモン剤が投与されるのが一般的です。

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⑥受精卵凍結と融解
良好な受精卵が複数得られた場合、余った受精卵は次の胚移植に備え、マイナス196度の液体窒素のタンクの中で凍結保存することができます。理論上は半永久的に保存可能なのですが、社会的倫理上の観点から保存期間を限定しています。必要に応じて凍結解除して胚移植する際は、受精卵をゆっくりと培養液の中で融解し凍結前のもとの状態に戻す必要があります。

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Ⅲ.費用について

 以前は体外受精にかかる高額な費用はすべて自費負担でしたが、令和4年度から条件付きで健康保険が適用となりました。法的婚姻だけでなく内縁関係のご夫婦にもその対象が拡大されました。ここで留意すべき点は、保険適用に女性の年齢制限と年齢に応じた体外受精の実施回数が設けられていることです。女性の治療開始年齢が43歳以前であれば、40歳までは一人の子供につき胚移植6回、40歳から43歳までは3回までが保険適用となり、43歳以降はすべて適用外です。また、費用の算定は採卵された卵子数や追加された手技により非常に複雑なものとなります。ただし、全国の各地方自治体で独自の不妊治療助成制度が創設されているようです。たとえば、宇都宮市であれば女性の年齢が42歳以前に限り、初回の自己負担金の10割かつ上限45万円が、2回目以降は7割で上限30万円が助成となります。実施後申請となりますので、詳細は宇都宮市のホームページをご覧ください。

Ⅳ.受診方法について

 初診の方は、月曜日から金曜日まで(紹介状があれば第2週を除く毎週土曜日も受診可)午前9時から11時までに診療前の事務手続きを終えて下さい。一般初診担当医による診療終了後、必要に応じて不妊専門医による特殊外来としての“生殖外来”の予約となります。生殖外来は毎週月曜日、水曜日、金曜日の14時からの開始です。生殖外来受診する際は婚姻関係を確認するため、戸籍謄本(原本)もしくは続柄記載の住民票をご用意下さい(後日宇都宮市不妊治療助成制度申請にも必要です)。婚姻関係確認後は戸籍謄本をお返しいたします。


 

お問い合わせ先
済生会宇都宮病院 婦人科外来
TEL:028-626-5500(代)
平日 15:00~17:00
※土曜・日曜・祝日、創立記念休日(6月第2月曜)、年末年始(12月29日~1月3日)を除く