心臓血管外科
低侵襲心臓外科手術:MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)
低侵襲な手術とは
侵襲とは患者さんへ対するストレスを意味します。
手術に際しては患者さんに、肉体的なもの、精神的なものなど様々なストレスが加わります。われわれは少しでも患者さんへの負担を軽くできるような手術を低侵襲手術と位置づけ、様々な取り組みをしています。いくつかご紹介します。
オフポンプ冠動脈バイパス手術
従来冠動脈バイパス術は人工心肺装置を用いて、心停止下に行っていましたが、人工心肺を使用することによる患者さんへの悪影響(脳血管障害、腎機能障害、呼吸器障害など)も、まれではありますがあることから、人工心肺を使用せずに、心拍動下に冠動脈バイパス術を行う、オフポンプ冠動脈バイパス術が開発されました。
1990年代からわが国でも普及し、今日では施設にもよりますが、国内の約50から60%はオフポンプ冠動脈バイパス術で行われています。
一方人工心肺装置の発展も日進月歩に目覚ましく、人工心肺の使用による合併症も今日では非常にまれになってきております。
最近の知見では、オフポンプ冠動脈バイパス術でも従来の冠動脈バイパス術でも、成績はほとんど変わらないとの報告もあります。これらを踏まえ、当科では患者さん一人一人に適した方法をお勧めし、より安全に手術が行えるように努力しております。そしてオフポンプ冠動脈バイパス術が適している患者さんには積極的に手術を行っています。
小切開右側方開胸開心術
心臓外科手術では胸部前面中央にある胸骨を縦に切開し心臓に到達する胸骨正中切開法が標準的で、ほとんどの症例で用いられてきました(胸骨正中切開法)。この方法では喉元からみぞおちにいたる20cmほどの切開を必要とします。
従来の胸骨正中切開(約20cm)
右腋窩小切開
しかしながら手術器具と医療材料の進歩に伴い、僧帽弁や心房中隔欠損症などの疾患に対して小さな切開から手術を行う低侵襲心臓外科手術が全世界的に行われるようになり、大動脈弁置換術についても右腋窩小切開アプローチによる手術が可能となっております。美容的利点を有しており、また胸骨に切開を加えることもなく、傷自体も7cmほどと小さいため術後の運動制限もなく回復も従来の正中切開に比べ圧倒的に早く、高いレベルでの社会復帰が可能となりました。
僧帽弁置換術および形成術、心房中隔欠損孔閉鎖術
従来、多くの心臓手術は胸骨正中切開で行われてきました。
現在も多くの手術がこの方法を採用していますが、当院では疾患によって小切開で手術を行う、低侵襲心臓外科手術(MICS; Minimally Invasive Cardiac Surgery)を導入しています。
特に、僧帽弁疾患や心房中隔欠損症などはこの方法の良い適応となります。この手術は胸骨正中切開をせずに右肋間から心臓にアプローチして手術を行う方法です。従来型に比べ、美容上の利点があるだけでなく、手術後疼痛も少なく離床も早くなります。但し、体の小さなお子さんでは難しく、通常の胸骨正中切開で手術を行います。しかし、可能な限り傷を小さくすることで、前が開いた服などを着た時でも傷が見えないように工夫しています。
また、この分野において、豊富な経験を有する慶應義塾大学病院心臓血管外科と密に連携し、診療・手術を行っています
従来の胸骨正中切開(約20cm)
右側方開胸(約8cm)
右側方開胸創
ステントグラフト内挿術
血管内治療
現在では大動脈瘤に対して、胸やお腹を大きく切らずに治療できる方法があります。
大動脈センター:ステントグラフトのコーナーで詳しく説明しています。